公衆トイレ、毎日清掃 関口さん(仲町)と仲間たち
天覧山と並び多くの飯能市民やハイキング客に親しまれている多峯主山。その多峯主山に4年前に設置された公衆トイレを毎日欠かさず清掃しているのが、飯能市仲町在住の関口輝雄さん(84)だ。
この公衆トイレはそば殻を利用してし尿を処理する市内初のバイオトイレで、設置以来、「山歩きのコースに綺麗なトイレがある」とハイカーに好評。関口さんは「清潔に保ち、利用する人に喜んでもらえれば」と、地道な清掃活動を続けている。
飯能市が平成28年3月に設置した公衆トイレは、多峯主山頂から南側に数分下った場所にあり、西川材を使った木造建て。2つの小便器と、女性専用、男女兼用大便器が1つずつ設けられている。
上水道が未整備のため水洗式ではなく、好気性バクテリアの生育に適しているといわれるそば殻を撹拌しながら、し尿を分解するバイオトイレ。手洗い用の水についても、竹炭で浄化した雨水を利用するなど、自然環境に配慮している。
関口さんは10年以上前から、日課として多峯主山を登っており、公衆トイレが設置されたのを機に、その清掃を買って出た。
毎朝7時に自宅を出て、天覧山を経由して多峯主山に8時頃に到着、トイレを清掃して帰宅する。
毎週水曜日には、山歩きの仲間、川越市在住の田部井政伸さん(78)、飯能市笠縫在住の神尾光子さん(75)が加わり、午前11時過ぎに3人揃って清掃を行っている。
仲間の田部井さんは、女性で世界初のエベレスト登頂を果たし平成28年に77歳で他界した登山家・田部井淳子さんの夫。自らも数々の山を登頂し、飯能・日高周辺の山々にも頻繁に訪れており、神尾さんも山歩きのグループで一緒の仲間だ。
関口さん、田部井さんによると「山歩きの人たちがまず確認するのは、コース上のトイレの有無。そして、トイレの綺麗な場所は評判を呼ぶ。特に女性に喜んでもらえる」という。
多峯主山の公衆トイレは日々、多くの人が利用した痕跡が見られ、常に清潔に保つには、こまめな清掃が欠かせない。タンクの水を使って便器の掃除をはじめ、トイレットペーパーの確認など、利用する側の身になって清掃を続けている。
84歳とは思えない軽快な足取りを見せる関口さん。毎日の清掃は大変では、との問いに、「登るついでだと思っているので、苦になりません」と笑顔を見せた。
また、公衆トイレの近く、雨乞池には、草刈りに精を出す飯能市飯能在住の橋本右一さん(78)の姿があった。草が伸びてくると自前の刈払機を担いで、諏訪八幡神社から雨乞池周辺にかけて草刈りを行っており、関口さんとも旧知の仲。
橋本さんは「登ってきた人に、綺麗になりますね、と喜んでもらえるのがやりがい。自分ができることで少しでも役に立てば」と汗を拭った。
登山コースや公衆トイレなどの管理を行う市観光・エコツーリズム推進課は、「こうした皆さんの自主的なご協力により、観光飯能を支えて頂いている。本当にありがたい」と感謝している。
多峯主山は、標高271メートルで手頃なハイキングコースとして人気。山中には、伝説の残る「雨乞池」や、江戸時代の大名・黒田直邦の墓、源義経の生母・常盤御前にまつわる「見返り坂」など、歴史深い場所が点在している。
雨乞池は、山頂付近にあっても涸れることがなく、かつては田畑の作物が枯れるような日照りが続くと、人々がここに集まって神に雨を乞い、賑やかな祭りをしたとされ、「この水を濁すと雨が降る」「鼻をつまみ息を止めて池の周りを七回りすると、池の中に異変が起こる」といった言い伝えがある。
黒田直邦の墓所は山頂直下にあり、直邦は、豪族・丹党中山氏の出で、黒田氏の養子となり、5代将軍綱吉から8代将軍吉宗に至る4代50余年間将軍家に仕え、老中にまで出世し、上州沼田藩3万石の大名となった。
見返り坂は、常盤御前が義経を追って東国に向かう際、あまりの美しさに急坂で立ち止まっては振り返ったことから名付けられたという。