「あれうまいね」が励み 飯能給食センター

定番の並定食(上)と、人気のはん丼(かつ丼)

 飯能地域の「サラメシ」を支え53年。飯能市川寺の協同組合飯能給食センター(木下晴介理事長)は、「あれはうまいね」の一言を励みに、「安心」で「おいしい」、安価な産業給食などで市民の胃袋を満たし続けている。

 昭和30年代の高度成長期、同市内では少人数経営の企業が数多く稼働していた。しかし、ほとんどが食堂施設を備えるほどの規模はなく、従業員は手弁当持参で仕事に従事、保温設備や容器もない中、冷えた昼食を取っていた。特に、男性の単身生活者にとって昼食は切実な問題だった。

 市内で操業する企業と、商工会議所が連携し、賛同する地元企業が出資し協同組合として飯能給食センターが昭和38年設立された。現在の出資企業は約200社。配達エリアは、北は越生町、東は狭山・入間市、南は東京都青梅市に及び、会員以外の企業も含め1日約5000食を提供している。

 そのほか、11幼稚園にお弁当を配達し、市内の小中学校に米飯給食を提供している。

 同センターの提供する食事の特徴は、安全安心でおいしく、安価なこと。

 創業以来、安全安心にこだわりを持って取り組んできたが、9年前に新工場に建替えた時に、安全安心管理をより徹底した。

 HACCPと呼ばれる、米国で有人宇宙飛行用食糧の安全性を確保するために開発された、国際的な食品衛生管理システムがあるが、新工場は、設計段階から食の安全性に配慮しHACCP高度化基準認定工場に。

 工場の作業区域を清潔区域、準清潔区域、汚染区域と分類し、床面を色分けし各作業室を完全に仕切り、管理区分を明確化し汚染等を防止。空調システムや、管理・記録システム等も安全性を追求。安全安心管理で、最終的に最もウエートを占めるのは、実際に運用する従業員だが、マニュアル作りや教育、自己管理も徹底している。

 腐敗防止や変色防止のため、具体的には何という物質がどれだけ使われているか分からないPH調整剤や、食品添加物も一切使わず、冷凍食品も極力使わないという。

 その背景にあるのは、同工場に設置された最新機器の存在。関西などからも、同業者団体が視察に来るが、「朝6時から入って焼き物などを始める」、と答えると驚かれるという。

 同社の焼き物製造機器は、一般の民間では導入が難しい1台2000万円もするもので、短時間で調理が可能だが、民間の一般的な機器では豚のロースを2000枚焼くためには、午前2時、3時から作業に取り掛からなければ間に合わない、という。

 蒸し物の機械や、真空冷却器なども最新の設備。細菌は、調理から4時間を過ぎると急速に増殖するため、深夜からの作業で、3時、4時からの盛り付けでは味も落ち、食品添加物等を使用する場合が多くなると、同センターの吉川稔理事と、原田宏三専務理事は口をそろえる。

 同センターの盛り付けは、朝8時からの作りたて。

 「値段の比較で、うちの給食を止めたが、代えた先の企業の工場を見学して1週間で戻ってきたところもある。コンビニなどのおにぎりを見ると、裏にいっぱい食品添加物等が記載してある。うちの工場を見に来てから判断してほしい」と、吉川さんらは胸を張る。

 取引先との間に培った長期にわたる信頼関係で、安価なうちに計画的に大量に仕入れ、高性能な冷凍庫・冷蔵庫に保存。献立は、50年以上の経験から、管理栄養士も務める吉川理事の頭の中にあり、「マンネリ化しないよう、毎日学習して取り組んでいる」。

 価格は、9年前の新工場稼働以後、消費税が5%から8%に引き上げられても据え置いている。

 低価格でありながら、手間暇は惜しまない。

 「料理は手間を掛けなければおいしい物はできない。食べる人の顔を思い浮かべながら、あえて手間をかけています。定食のハンバーグも冷凍物で安くあげることはせず手作りです」と、原田さんは語る。

 最人気メニューは、はん丼のカツカレーと、かつ丼(480円)。カレーは、定食の倍の価格がするカレーを使い、かつ丼は、専用鍋で一つずつ手作り。はん丼は、最も価格の張るメニューなので、値段に見合ったものを心掛け、夕食に持って帰ってもらうことも狙い、返却不要のプラスチック容器を使用する。

 中高年や、女性の利用者が増え、ヘルシーランチ(385円)もよく出る。

 調理師、栄養士にも、直接顧客のところに出向かせて話を聞き、食べる人の顔が思い浮かぶようにしている。

 賀詞交換会など、出先で「あれはうまいね」の一言を聞くことを励みに、同センターの職員は、日夜手間暇を惜しまず、産業給食などを作り続けている。