法華経28巻、10年かけ書写 厳島神社へ奉納

法華経が書写された巻物に見入る出席者たち

 飯能市山手町在住で元毎日書道展会員の石川みどりさん(69)が、仏教の代表的な経典「法華経」の全28巻を10年かけて書写し、装飾を施した「装飾経」を完成させ、平安時代に平家一門が法華経を奉納した広島県の厳島神社へ奉納した。奉納を前に、石川さんの菩提寺、同市原町の心応寺(長澤保人住職)で完成披露式が開かれ、地元の関係者らが本堂に広げられた石川さんの作品に目を見張り、感嘆の声を挙げた。

 石川さんは、幼い頃から書道に親しみ、これまでに毎日新聞社主催の毎日書道展や日本書道美術院の日書展などで作品を発表。古筆学研究所主催の研究会で平家納経について学ぶ機会があり、以来、写経に強い関心を持つようになり、仏教信仰の代表経典である法華経の書写を開始。装飾料紙製作の第一人者である大貫泰子さんから装飾経の技術を学び、自分で製作した写経料紙を使って書写に取り組み始めた。

 その後、病を患い苦しんだが、「病魔に負けないように」と写経を心の支えに、一点一画に信念を込め、開始から10年をかけ今年の1月1日に法華経28巻の写経を完成させた。

 作品は装飾料紙製作の技術を駆使し、唐紙の巻物に金箔などを散らした装飾を施し、鳥の子紙と呼ばれる和紙を貼って金銀泥で経文を書写したもの。

 石川さんの努力と作品は書道界で高く評価され、厳島神社に全巻が奉納されることになり、病に負けずに書き続けた信念と国家安穏、世界恒久平和への願いを込めた願文(がんもん)1巻と合わせ、4月27日に同神社で納経の儀が執り行われた。

 同神社への奉納に先立ち、地元の心応寺で開かれた完成披露式には、長澤住職をはじめ、飯能市内在住で石川さんと親交のある大東文化大学名誉教授の関口忠男さんなど友人らが出席。

 はじめに石川さんが「厳島神社に奉納されてしまうとお蔵入りになってしまうので、その前に写真を撮っておきたいと思い、私の菩提寺である心応寺さんにお願いしてこの場を開いてもらった。拙い作品ですが、皆様に見ていただけたら嬉しく思います」と挨拶。

 続いて関口さんが「石川さんが書写した法華経は28章と長く、巻ごとに筆者が変わることも多い。ところが石川さんは書写するだけでなく料紙も自分で用意し、1人で書き上げた。これは書道界でもほとんどないことで、この努力が認められ厳島神社に奉納が正式に決まった」と説明した。

 本堂に並べられた巻物は、長いもので1巻5メートル以上の長さがあり、日高市から訪れた女性は「紙から仕入れて、巻物から書写まですべて自分で作り上げ、このように命を使うのかと感服いたしました。今日は素晴らしいものを見せていただいた」と感想を話した。

 長澤住職は「巻物がとても長く、一般の家庭では披露することができないので、石川家の菩提寺である心応寺のご本堂にて皆さんに見ていただくことになった。厳島神社に奉納されるとことは、石川さんから聞いていたが、奉納される前に心応寺のご本尊の前で法華経を披露して頂きありがたく思っている」と述べた。