国の登録文化財 「織協」棟の所有権移転

和洋折衷様式で存在感のある織協事務所棟の外観

 昨年10月、国の有形文化財(建造物)として登録された飯能織物協同組合(略称・織協、大沢正夫理事長)事務所棟(同市仲町)の売買契約が26日に成立し、土地と建物の所有権が織協から毛呂山町に本社を置く不動産コンサルティング会社「ベアライズ(隈江健一社長)」に移った。織協は、同社の隈江社長から「20年くらいは、このまま維持管理したい」と話を聞き同社への売却を決めた。具体的な保全計画等は所有権が移転した今後になるものと思われる。隈江社長は「保全修繕を行う方向で、建物内で賃貸されている方々の意向も確かめながら9月までに計画を決めていきたい」と話している。同棟の保全を呼び掛け、定期的な清掃活動などを行ってきた「飯能の文化遺産を活かす会(小林和子会長)」は、同社にリノベーションを一緒にやっていくように要望するという。保全の必要性が叫ばれながら、大規模な修繕等を行う事ができなかった同棟が、新たな利活用に向け「お色直し」される日も近いかもしれない。

 近世以降、飯能と周辺地域は、西川材の生産のほか、養蚕や織物産業で栄えた。

 同棟は、織協の前身「武蔵絹織物同業組合」事務所として、大正11年に建築された。施工者は、地元業者の佐野材木店。絹の検査や関係する税の徴収は、すべて同棟で行われたという。その取引で蓄えた財力で、武蔵野鉄道(現西武鉄道)を呼び込むことにも成功している。

 外観は洋館的デザイン。構造は、木造2階建て洋小屋トラス、床面積は1階が221・02平方メートル、2階は204・50平方メートル合計425・52平方メートル。外壁は、長い板を横に張り、上に重ねていく南京下見杉板張りという洋風建築だが、屋根はしゃちほこが据えられた寄棟造り日本瓦葺き。内部壁の主な仕上げは、板張りと漆喰(しっくい)塗り。応接間入口上には、当時の名称であった武蔵絹織物同業組合の「武」の文字をデザインした模様が鏝絵(こてえ)で描かれている。鏝絵は、左官職人が使う道具の鏝を用いて、漆喰を浮き彫り風に描いた絵。当時の職人の高い技術力を伺い知る事ができる。2階大広間の天井は、小幅折上天井で中央部にむくりが付いている。中央部の天井が一段高くなる構造で、さらに中心部を凸状に盛り上がらせた建築様式。部屋に奥行きと開放感を出す事ができる。随所に趣向を凝らした和洋折衷様式の同棟は、大正時代の息吹が感じられる。

 平成26年9月、(一社)県建築士事務所協会景観整備機構は、「飯能の観光拠点としても貴重な同棟を残すべき」という観点から、同棟の調査依頼を織協に行い翌年調査が実現し、「絹織物産業の歴史を後世に伝える歴史・文化遺産という点においても極めて貴重な建築」である事が分かった。

 これを受けて、織協は平成28年1月、飯能市教育委員会に「登録有形文化財申請に関する要望書」を提出。昨年7月、国の文化財審議会文化財分科会は、「造形の規範に該当する」として同棟を国の有形文化財に登録する事を決定。10月27日の官報で、同棟を国の文化財登録原簿に登録することが告示された。

 これで同棟の保全と利活用が進むものと、期待が膨らんだ矢先の同棟の売買交渉成立だったため、保全を要望してきた市民の中には戸惑いを隠せない人も。

 同棟は、建物内の賃貸収入と付属する駐車場からの収入でこれまで維持されてきた。しかし、織物業を営む組合員は既になく、残った組合員も高齢化が進み10人ほどに減っていた。

 組合は、同棟を売却し解散する事を決め、市に資産売却に至った経緯を昨年暮れ文章で提出している。

 組合から本紙に、売却に至った経緯について文章での回答があり、この文章によれば、「現組合員は何とか建物が(取り壊されるような)選択を避け、価値ある撤退の方法を常に心掛けていたが、組合はここ数年事業もなく、大規模修繕の時など、高齢化でいつまで誰が維持管理できるかなど問題が多すぎて財産処分、組合解散を検討した」と、厳しい実情が記されている。

 また、大沢理事長は、「組合員には、できれば維持していきたいという思いがあり、だからこそ国の登録文化財に申請しました」と、苦しい胸の内を明かす。

 織協では、2年前から数社にヒアリングを実施しており、その際、隈江社長から「古い建物や歴史的建造物に興味があるので有効活用しながら、大きな天変地異がない限り、20年くらいはこのまま維持管理をしていきたい」という発言があり、織協では「建物の姿を残したまま居抜きで移行できる」と判断し売買に踏み切った。

 売買契約成立を受け、織協はきょう3月1日に総会を開き解散することにしている。

 国の登録文化財の所有者が変わった場合、市に20日以内に現状変更として届け出を行わなければならない。

 活かす会の小林会長は、「輝かしき飯能の織物業の生き証人ですから」と語り、近く同社を訪れ同棟の保全に向けたリノベーションなどを提案することにしている。

 また、活かす会は、まちの賑わいの中心だった同棟を会場に「飯能ひな飾り展」にも参加し、七段ひな飾りを展示している。3、4、10、11の土日の4日間、会員が会場で説明を行い、同棟内部の鏝絵なども見学することができる。平日も、中央通りの歩道から同棟内部のひな飾りを見学可能。