新たな移動サービス「グリスロ」 こま武蔵台団地で実証実験開始

出発式で「グリスロ」に乗る住民たち

 日高市の「こま武蔵台団地」で小型電動カート「グリーンスローモビリティ」(グリスロ)を使った新たな住民移動サービスの実証実験が始まり、21日、こま武蔵台ショッピングセンターで出発式が行われた。

 高齢者の移動手段の確保などが課題となっている同団地で試験的に運行し、導入効果や課題等を検証する取り組み。

 出発式当日はあいにくの雨模様となったが、関係者をはじめ地域住民らが多数参加し、住民を乗せた2台のグリスロが初運行を行った。実証実験は4月11日まで。

 グリスロは、時速20キロ未満で公道を走る4人乗り以上の小型電動カート。ゴルフカートをベースとした外観で、乗降部のドアが無く、ゆっくりと地域を走る。

 観光客の周遊手段や高齢者の移動のための交通手段として注目を集めている。

 こま武蔵台団地での実証実験の実施主体は、国土交通省が所管する事業の調査・試験・研究・開発などを行う国土技術政策総合研究所(国総研)。

 日高市社会福祉協議会、こま武蔵台自治会、こま武蔵台商店会、こま武蔵台福祉ネットなどと協力して準備を進め、運転手は国際興業のドライバー、事務局は地域活性化を目的に事業を展開するNPO法人げんきネット武蔵台が務める。

 実証実験期間中は、乗車定員5人、運賃は無料、予約や事前登録は不要で誰でも利用可能。2台のグリスロを曜日によってルート・ダイヤを変えながら運行。

 買い物や通院、路線バスへの乗り継ぎなどに利用を呼びかけ、「乗り心地」や「行きたいところへ行けるようになったか」などを把握し、その有効性を検証する。

 運行ルート上には、こま武蔵台ショッピングセンター、武蔵台公民館入口、武蔵台中学校などの主要地点に停留所が設けられたほか、「フリー乗降区間」が設定され、利用者は、乗車する際は停留所またはフリー乗降区間で手を挙げて乗車の意思を示し、下車する際には運転手に声をかける。

 同団地は、東急不動産が昭和52年に開発し、人口約4700人、約2200世帯。高度経済成長とともに発展したが、近年は高齢化が進み、起伏のある地形のため高齢者の歩行での移動が困難といった課題が顕著になっている。

 同団地の活性化に向け、東京大学と東急不動産による研究、シンポジウムやワークショップなどを経て、国交省の研究プロジェクトの対象となり、「新たなモビリティ」の検討が進められてきた。

 ショッピングセンターで行われた出発式では、関係者の挨拶、テープカットの後、住民を乗せた2台のグリスロが発車。

 実施主体となる国総研の芭蕉宮(ばしょうみや)総一郎都市研究部長は、地元関係者の協力に感謝し、「全国の郊外住宅団地は高齢化が進み、地域の活力が失われるおそれが高まっている。そのような中、安心していきいきと暮らせる場所として維持・再生していくことが大きな課題。特にこま武蔵台団地のように坂の多い団地では、高齢者の足の確保がカギとなっている。グリスロのように、優しく、ゆっくりと走る車を地域の力で運行していくことが、解決の糸口となるかも知れない。この取り組みが全国の郊外住宅団地の希望の光となることを期待している。実証実験の期間中、皆さんに乗って頂き、ご意見ご感想をお寄せ頂きたい」と挨拶。

 事務局を務めるNPO法人げんきネット武蔵台代表の柳沢弘二さんは、これまでの取り組みの経緯を振り返り、「実証実験を通して、地元で運用できる、持続可能な事業になるかどうかの見極めをしていかねばならない。できるだけ多くの方に乗って頂き、関心を持って頂くことが重要。“持続可能な街を目指す実証タウン武蔵台”の旗を掲げ、次のステップに進めるような実証実験になれば」と述べた。

 グリスロに乗車した地元の70代女性は「とても静かで坂道もぐんぐん進み、乗り心地もいい。ゆっくりと地域を走ってくれるので、気軽に利用できるのでは」と笑顔を見せた。