市が私有林を間伐 62年後、4割針広混交林に

傾斜地の山の間伐作業は大変な労力

 飯能市は、今年度から山間5地域の私有林の間伐を進める「水源地域間伐事業」に着手する。外材に押され木材価格の下落から森林経営を諦め、半ば放棄され荒れ放題になっている私有林の手入れを、貴重な水源地の環境保全や防災上などの理由から、市が所有者に代わって行う事業で、そのために市は西川広域森林組合(飯能市阿須)と連携し、4400人を超える森林所有者の経営意欲などを確認する「森林所有者意向調査」も開始する。

 市の森林面積は、平成28年の調査で1万4569ヘクタールに及び、市域の75%に及ぶ。その内、植栽されたスギ、ヒノキなどの人口林は1万1921ヘクタールで森林面積の82%を占める。市立博物館「きっとす」所蔵の記録によれば、1900年(明治33年)の市の樹種構成は、針葉樹(人口林)3に対し、広葉樹7であったとされ、その後、戦後の拡大造林を経て現在の樹種構成となり、本来の自然の山の姿とは、かなり異なっている。人口林の占める割合は、県平均で5割、全国平均の4割と比較すると、市の人工林の割合は突出して高い事が分かる。

 同森林組合は、飯能、日高、毛呂山、越生の森林所有者で組織された組合で、地区内の森林面積は2万457ヘクタール。

 外材に押され国内林業の経営が険しくなり、伐採しても山から出し運搬する経費が売価を上回り、成木となっても伐採されず、間伐、枝打ち、下草刈りなどの手入れが行き届かない人工林が日本全国に広がっている。

 降雪時の倒木、大雨時の土砂崩れや流木による被害、花粉の大量飛散が社会問題化している。水源地の荒廃も懸念される。

 国は、平成36年度森林環境税の創設、今国会での成立が目指されている森林経営管理法案などで、間伐の推進など森林整備に乗り出す。

 市も、今年度が計画初年度に当たる「第6次市森林整備計画(2028年までの10か年計画)」を策定、森林の健全な育成と林業の振興に資する施策を推進する。水源地域間伐と意向調査は、その主要事業。

 平成11年、合併前の名栗村が補助金による間伐事業を始めたのが、飯能市が間伐に取り組む端緒。17年の合併で「森林文化都市」宣言したことを機に、県の担当職員も派遣され、非常勤特別職員による市有林の調査・管理等を行う「森の番人」制度もスタートさせ、補助金支給による私有林の間伐事業への取り組みも始めた。昨年度の間伐実績は、補助金による私有林の間伐10ヘクタールや、組合実施によるものなどを含め160ヘクタール。

 しかし、私有林所有者の78%が保有面積3ヘクタール以下の零細林業家で、林業経営を諦め補助金があっても山の手入れに意欲を持たない人が多く、また市の森林面積のうち約87%は、個人・団体所有または共有であることから、市の森林面積全体から考えると、ほとんど手入れに着手できない状態だった。

 そのため、市は、森林環境税の創設と、今国会で審議されている森林経営管理法案を追い風に、森林所有者に、今後の森林経営の意思、市が間伐に入る事への同意などの意向を確かめながら、森林所有者に代わって市が私有林の間伐事業に着手する事にした。

 森林経営管理法案は、森林所有者の責務を明確にし、所有者不明の森林については、一定の手続きを経れば、市町村が経営管理権を行使できるようにするもの。

 本来の間伐は、3割程度を伐採するものだが、水源地域間伐事業では4~5割程度を間伐し、山の地面に日の光を入れて、その空いた空間に広葉樹の種子が根付き、次第に針広混交林化することを期待している。

 今年と来年の2年間は、体制整備と試行期間のため初年度の間伐計画は160ヘクタール。2020年から、森林組合と密接に連携を図りながら本格的間伐事業を始め年間300ヘクタール実施。2040年までの20年間に6000ヘクタール(市の森林面積の41%)間伐する計画。1回間伐しただけでは十分に針広混交林化しないため、再び20年かけて、1回間伐した地域を再間伐、これを62年後の2080年まで3回繰り返し、市の森林の約4割を完全に針広混交林化する息の長い壮大な計画。

 この事業により、市は5000メートルの作業道を新たに作るが、間伐に入る地域は経営が困難で条件が悪い所が中心で、山から出して輸送するにはコストが掛かるため、切り出して販売する木は条件の良い一部に限り、大半は切り捨てで処置を講じた上で現場に貯蔵保管する方針。

 私有林を市が整備していくためには、所有者の同意と合意形成が不可欠。市内の森林所有者は約4400人、調査が進むと、さらに対象者が増える可能性が高く、2割以上が市外居住者で、200人以上の人の共有林となっている例もあり、意向調査は困難が予想され担当課職員と森林組合員の負担は少なくないものと思われる。市は、意向調査により森林経営の集約大規模化も目指す。

 財源は、県の水源地域の森づくり事業補助金(31年度まで)と、31年度から暫定的に譲与される森林環境税を充てる。