日建リースが農業参入 南高麗に先進的農園開園

チンゲンサイの定植を進める服部さん(左)と、境さん(上畑の農園)

 飯能市茜台で武蔵工場を操業している建設仮設資材・運搬用資器材等リース会社の日建リース工業(株)(本社東京千代田区、関山正勝社長)は、新規事業として農業に進出し、市内上畑に「高床式砂栽培」農法の「はーとふる農園」を3月末開園した。同農園は、農業を中心とした地域貢献などを目的に、障害者や高齢者も積極的に農園で雇用していく方針。また、障害者のための農業研修施設となる就労移行支援事業所「はーとふるネクスト」を、市内双柳に建設中で今年夏頃の完成を目指している。

 同社は、昭和42年、関山正現会長が、建設用仮設機材のレンタル企業として、千代田区神田に設立。「レンタルを通して大いなる社会貢献と幸せの創造」を経営理念に、順調に業績を伸ばし、北は青森から、南は沖縄まで営業所や工場を展開。資本金160億円、売上高724億円、社員数1350人を抱える会社に成長。「仮設事業」「ハウス・備品事業」「物流機器事業」「介護事業」が基幹事業。

 平成25年4月、茜台の大河原工業団地内に武蔵工場を開設。周辺工場の機能を集約し、敷地面積約14万6000平方メートル、サッカーフィールド20面分の広さがあり、同社最大規模の工場であるばかりでなく、海外の建設資材も取りそろえる業界的にも日本最大級の仮設レンタル資材工場。運営スタッフは約180人。同工場だけで資産として350億円以上になる。

 同社は、専門部署を設置して、基幹の4大事業に加えて新規事業の開拓を推進しており、昨年から、仮設資材を活用した丈夫で耐久性の高さに特長を持つ農業用ビニールハウス「48ストロングハウス」の販売を開始。また、同社自身が、農業への進出を計画。付近に農地の多い飯能での地域貢献を図るため、昨年、武蔵工場で農業技術者や、福祉施設長を募集し、農園開園に向けた準備を進めていた。

 同社には、社会貢献できる事業こそ、地域やお客に喜ばれ、広がっていく事業という理念があり、課題の多い日本の農業に取り組む事は理念に叶うものという判断があった。

 新規事業開拓に携わる同社の担当者・服部将平さんは、週末農業学校の「アグリイノベーション大学校(本社・京都市)」に、1年通い3月に卒業。農家出身だったが、農業経験はなく一から学んだ。

 武蔵工場から、南に約3キロ離れた上畑地内に合計3000平方メートルの農地を借り受け、3月下旬、同社製のビニールハウスを設置し農業への取り組みをスタートさせた。

 ハウスは、間口6メートル、軒高約2・5メートル、奥行き36メートル、敷地面積約200平方メートルで7棟設置した。

 ハウス内での農業に、同社は「高床式砂栽培」を採用。この栽培法は、はさみ、ヘラ程度で特別な農具や機材を必要としない簡単で安全な農法で、立った人のおよそ腰の高さに、野菜等を栽培する「砂栽培ベッド(砂床、1・2メートル×1・8メートル)」を設置するため、腰をかがめず作業する事ができ負担が軽く、車イス使用者にも無理なく作業ができる。

 砂栽培は、今から40年くらい前から取り組みが始まり、九州大学で研究が進められていた農法で、土ではなく粒の大きさを厳選した砂を利用し、チューブから水や液体肥料を計画的に自動で与えるもの。砂は収穫後、洗い流せるため連作障害がなく、水や肥料のムダも少なく、高床式と組み合わせることで、狭い土地や地形でも生産効率の高い農業を行うこともできる。大手企業が、積極的に推進しているほか、25年に、(一社)日本砂栽培協会が設立され、育成マニュアルにより、初心者にも安心して参入可能な農業として普及を図っている。

 服部さんは、連作障害の心配もなく砂を好む病害虫もいないため、基本的には無農薬栽培を目指し、現在は、チンゲンサイ、小松菜、レ タスなどの実験栽培を行っている、という。

 チンゲンサイの定植作業をしていた境宏樹さん(30)は、「転職を考え面接を重ねるうちに、この新規事業を知り、ここに配属されましたが毎日が楽しい」とにっこり。実家が農家だった境さんにとって、転職は成功だったようだ。

 現在は、実験栽培中のため、社員4人で運営しているが、初心者でも安全安心に作業可能なことから、本格的に栽培を開始し次第、障害者、高齢者雇用への貢献も進めていく。

 7月オープンを目指し建設中の「はーとふるネクスト」は、敷地面積約500平方メートル、平屋建て192平方メートル。同社の農園で働く障害者の農業研修所として役割のほか、「農業で多くの障害者雇用を創出し、社会に貢献する」事を理念に、障害がある人などの農業を通じた企業への就職サポートを目的にした施設。

 就職を目的に農作業スキルを磨き、企業へのマッチングまで行い、可能な限り実際の就職に結びつける事などを目指す。高床式砂栽培農法を中心に、就労に必要なスキル・ビジネスマナー、値札付け、パソコン作業なども習得する。

 利用対象者は、障害の部位・内容によらず、一般企業等で就農を希望している人、満65歳未満の人。利用期間は、原則最長2年間、就職が決まった時点で退所。利用者の収入によって条件が変わるが、大半の人に、負担金なしで利用してもらう方針。

 1日のタイムスケジュールは、午前10時の朝礼から始まり、午前午後に各種トレーニング、昼食(無料)、午後3時終了。

 同社では、農園の地元見学会などを通じて、同社の農園運営についての理解を広め、まず周辺地域に1万平方メートル程度まで農地を広げ、ゆくゆくは高齢化問題や耕作放棄地問題を抱える日本農業の課題解決に貢献するため、全国展開を視野に入れている。

 生産した農作物は、物流関連のレンタルで培われた取引先のスーパーなどを手始めとして、販路の拡大を予定している。