優れたデザインと品質 一級のOBUSUMA家具

 

人気のスツールを囲んで右から、坂本さん、竹村さん、高村さん、河東さん

 「OBUSUMA(おぶすま)」は、一流工房にひけを取らない西川材製の家具を製造している。飯能市芦苅場にある社会福祉法人おぶすま福祉会飯能事業所が立ち上げたブランド。同所は、就労継続支援(B型)の施設で、障害のある人などに、就労の機会を提供するとともに、生産活動などを通して、意欲や知識、能力向上を図る施設。

 平成27年、JAPANWOODDESIGNAWARD2015では、ウッドデザイン賞木製品分野のソーシャルデザイン部門で入賞。同部門には30社・団体が入賞したが、社会福祉法人はOBUSUMAだけ。障害のある人が作業訓練で作ったレベルを超え、一般の商品水準以上というお墨付きを得た。

 同福祉会(坂本稔理事長)は、平成7年寄居で発足。同9年、同市芦苅場にも飯能事業所を開設。現在は、障害がある人が宿泊し生活するグループ(ケア)ホーム機能と、日中の作業を通じて一般企業への就労を目指す就労継続支援施設B型としての役割があり、13人が入所生活し、登録している通所者も含めると30人が利用する。

 利用者の年齢は、18、19歳から、現在の最高齢は74歳。入所者の男女別は半々。勤務職員は15人。

 飯能事業所開所当時から、地場の西川材の木工製品作りに取り組んだ。

 最初は材料の入手にも苦労し、利用者に理解してもらい就労意欲を高めるにも工夫が必要で、作っても売れなかったと、坂本美津子業務執行理事は振り返る。

 その中でも、入手可能な材料を使い、利用者が製造することが出来売れる製品、しかも、「障害者が作った難ある安い物」ではなく、一般以上の製品を目指し試行錯誤を重ねた。

 利用者には、知的な障害がある人のほかに、自閉症、発達障害を抱える人も少なくないが、作業を続けていくと、その分、集中力やこだわりが強く、また、それぞれが好きな得意作業も段々分かってきた。食事より磨き作業が好きで何時間も磨き続け何でもつるつるに磨き上げてしまう人、カーブ磨きの得意な人、力が弱いことがかえって、繊細さが必要な仕上げ塗装に向いていた人などの個性をつないで結集すれば、という思いがより強くなった、と坂本さんは語る。

 そんな時、20年に現施設長の竹村敦子さんが入所。竹村さんは、家具職人として約10年の経験があり、介護職員としても15年以上のベテランだった。

 これまで、木工経験のある職員は居なかったため、技術の高い物が作れるようになった。

 事業の一層の展開を目指し25年県に相談。県は、高村クラフト工房の高村さんを紹介。高村さんは、家具工房をときがわ町で営み、所沢市や三芳町にまたがる三富(さんとめ)地域の平地林の活用など、埼玉県地域材の普及活動に取り組んでいた。イスを中心とした木工作家として知られ、「暮らしの中の木の椅子展」で最優秀賞を受賞するなど、表彰歴も豊富。

 「スギ、ヒノキなどの針葉樹は家具造りに向かないが、材料的に幅が広がるのではないか。障害を持つ方が自信を持って生きていくことに協力出来ないか」という思いから事業に参画。

 さらに、高村さんは、知り合いでデザイン事務所を経営する河東梨香さんにコラボを持ち掛けた。河東さんは、グローバルな視点を持ち、人目を惹き人が欲しがるディスプレイデザインなどに長けていた。河東さんは、日本人の父とデンマーク人の母を持ち、ドイツに生まれ欧米数か国で生活した経験があるテキスタイル&インテリアデザイナー。多様な国や文化の中で経験した“和と洋”の融合をデザインの根源とし、東京でtonaデザイン事務所を主宰。ムーミンの公式ファンブックの付録のデザインなど、ムーミン関連のデザインも数多く手掛けるほか、メッツァのアンバサダーも務める。

 「東京で、介護施設職員を3年間していた経験などから、住環境は利用者の幸せにつながる重要な事と感じていた」と、河東さんは目を輝かす。

 OBUSUMAプロジェクトが立ち上がり、河東さんはロゴデザインに着手。

 「利用者さんの得意分野がそれぞれ違い、一つの家具が出来るという話が印象的で、各個人の思い、特色を掛け合わせて一つのブランドマークに出来ないか」と考え、飯能の山と昇る太陽と、同時にOBUSUMAのOとBをイメージ化。色見本のカラーチャートの一番端にある混ざった色3つを使い、それぞれの個性が融合し、一つのブランドになっている事を表現。

 和を思わせる淡く微妙な色で、強いて表現すれば、空に昇った太陽を表す紫がかったピンクの淡紅藤色、うすい緑の青磁鼠色と、山吹色系の淡黄色の三色。人気製品のスツールは、顔料系の塗料が塗装された三色の3タイプもあり、光の明るさ加減で色の見え方が違う(坂本さん)。

 主に河東さんがデザイン、高村さんが設計、阿須のフォレスト西川から、規格を統一した西川材を仕入れ、同所の職員と利用者で製造可能かどうか試行錯誤を重ねた上でフィードバックし、さらに河東さん、高村さんら関係者が話し合いを重ね、それそでの主張等を融合させ練り上げてきたのが、OBUSUMA家具。

 お披露目として、25年、東京ビッグサイトで開催された環境展示会「エコプロダクツ2013」に出展。一般の家具製造会社と同様に1区画を借り受けた。反響は大きく業界紙等7媒体が記事化。自分たちが評価されている事を知った利用者が自信を持ち、より一層意欲を持って作業に取り組むようになり、利用者の困った行動も減ったという。

 27年、JAPANWOODDESIGNAWARD2015には、キューブスツールを出展。ウッドデザイン賞に入賞した。

 人気商品のキューブスツールは、無地の物が1万8000円(税抜き)、オブスマカラーに塗装されたタイプが2万1000円(同)、他にキューブチェア2万8000円(同)など7種が主力製品。大きさは注文次第という。

 家具以外にも利用者の個性を活かした爪とぎや、スマートフォンスピーカーなど周辺小物も増えている。

 製造家具の評価の高まりととともに、利用者の意欲も評判も高くなり、一般企業への就職が叶った人が出ている他、同所への入所を希望する保護者や、職員への雇用を打診してくる人も少なくない。

 OBUSUMAでは、さらに大口の契約がまとまりそうで、高村さんを中心に新たな構想を練っている。

 問い合せは同会飯能事業所973・9879。