白刃舞う鎮守の獅子舞 下名栗諏訪神社

高い技術、表現力で2日間を演じる保存会メンバー

 19世紀初め、峠を隔てた青梅市成木の高水山から伝わった勇壮、繊細な獅子舞で知られる、飯能市下名栗地区の「下名栗諏訪神社の獅子舞」が8月26、27日の同社例大祭で奉納される。真剣を振る太刀遣いと獅子が絡み合って舞う、クライマックス「白刃(しらは)」の演目は必見。苔むした杉木立の諏訪神社境内に響く獅子舞の笛と太鼓の音を合図に、山間の名栗地区は一足早く秋めく。

 一人立ちの獅子3人と、花笠をかぶる4人が一組になって踊る3匹獅子舞が、下名栗諏訪神社の獅子舞。

 今年の例大祭は8月26、27日催され、獅子舞は午前8時半から午後6時までの間に、保存会によって奉納される。同伝統芸能を継承している保存会は、小学2年から90代までと幅広い年齢層で構成され、会員は約100人。

 天保14年(1843)、峠の反対側の青梅市成木の高水山常福院の獅子舞からの伝授書が残されている。しかし、現在の獅子頭には文化5年(1808)の造立銘があるほか、さらに時代を遡る獅子頭も残されていることから、伝授が承認される以前から、下名栗諏訪神社では獅子舞を行っていたと考えられている。

 下名栗の獅子3匹は、「女獅子(めじし)」「大太夫(おだい)」「小太夫(こだい)」と呼ばれ、舞いは勇壮かつ繊細。高度な技術は、埼玉県内に200ある3匹獅子舞を代表するものと評価、昭和41年に名栗村文化財に、同62年には埼玉県の無形民俗文化財に指定されている。

 「芝(しば)」と呼ばれる演目は、「御宮参り・御幣懸り(おみやまいり・おんべいがかり)」「花懸り(はながかり)」「三拍子(さんびょうし)」「棹懸り(さおがかり)」「女獅子隠し(めじしがくし)」「白刃(しらは)」の6つ。

 社殿前の舞庭全体を使って、優美、時に激しく舞う動きのある獅子舞が特徴で、真剣を持った2人の太刀遣いと獅子が組み合って勇壮に舞う「白刃」は、同獅子舞演目で最も有名。

 演目の内容と開演時間は次のとおり。

 ①御宮参り・御幣懸り(午前8時半~同9時40分)

 社殿をまわりながら参拝する獅子行列の「御宮参り」。これに続く「御幣懸り」は、最初に女獅子が庭場に光る物が落ちているのを見つけ、怪しみ恐れる。次に小太夫が恐る恐る近寄って、それが金色の御幣であることを確認すると、3匹は次第に複雑に絡み合い、最後に大太夫が悪魔退散の祈願をするという内容。女獅子をリード役として3匹が織りなす構成美は、数多い3匹獅子舞の中に比類がなく、その極致を示す演目。

 ②花懸り(午前10時5分~同35分)

 4つの花笠をサクラに見立て、3匹の獅子が花見に出かけ、その美しさに酔って花を散らさんばかりに楽しく遊ぶ姿を演じる。獅子を始めたものが最初に舞う演目。

 ③三拍子(午前11時~同半)

 国家安泰、五穀豊穣、氏子繁栄を祈る舞。3匹の獅子が楽しく遊び、疲れて眠るが、再び元気よく遊ぶ。3匹の獅子は常に同じ動きをするため、絶えず呼吸を合わせることが大切な舞。

 ④棹懸り(午後12時半~同1時40分)

 3匹の獅子が仲良く花見をしながら進んでいくと、行く手に川が現れる。まず女獅子が浅瀬を渡り、これに続く小太夫、大太夫を先導して、岸に渡すという内容。

 ⑤女獅子隠し(午後2時5分~同4時5分)

 この獅子舞の中で、個人技が最も発揮される演目。男女の恋の葛藤を描く、繊細かつ優美な舞。女獅子に対する雄獅子の優しくかつ執拗な誘い。雄獅子の演じ手は本気で女性を誘惑するつもりで舞う。恋人に未練を残しつつ、次第に新たな恋にひかれて誘い出される女獅子の演技は、上級者が演じると見る者の涙を誘う。

 ⑥白刃(午後4時半~同5時50分)

 悪魔払いの祈願を込めた演目。2人の太刀遣いが登場し、真剣を使って舞いながら獅子の羽根を切る場面がある、同獅子舞で最も有名な演目。獅子が「刀が欲しい、刀が欲しい」と太刀遣いにせがむが、太刀遣いは見せびらかすだけで、一向に渡してくれない。ようやく、獅子は刀をもらえ、大喜びで口にくわえて踊り回る。