国の登録有形文化財に 飯能織協事務所棟

外観全景。外壁は下見杉板張、屋根は寄棟造日本瓦でしゃちほこが据えられている

 織物の街・飯能の貴重な文化遺産として保存活動が行われてきた飯能織物協同組合(織協)事務所棟(飯能市仲町)が国の有形文化財(建造物)に登録されることが21日、国の文化財審議会文化財分科会で「造形の規範に該当する」として決定した。同文化財は市内では初。

 同棟は、大正11年の建築。飯能周辺地域は、かつて林業とともに織物業が主要産業。同棟は、絹織物が栄えた時代、集散場所として使われた。外観は洋館的デザイン、屋根には日本の伝統的建築物に見られたしゃちほこの棟飾りが乗った独特な姿を今にとどめている。

 市民団体が、これまで保全活動に取り組んでいたが、国がその歴史的価値にお墨付けを与えた形。市や市民の関心が高まり、同棟の保全、維持・管理に一層の弾みが付くものと関係者は期待している。

 近世以降、飯能と周辺地域は、西川材の生産のほか、養蚕や織物産業で栄えた。

 同棟は、織協の前身「武蔵絹織物同業組合」事務所として建築された。施工者は、地元業者の佐野材木店。絹の検査や関係する税の徴収は、すべて同棟で行われたという。その取引で蓄えた財力で、武蔵野鉄道(現西武鉄道)を呼び込むことにも成功している。

 構造は、木造2階建て洋小屋トラス、床面積は1階が221・02平方メートル、2階は204・50平方メートル合計425・52平方メートル。外壁は、長い板を横に張り、上に重ねていく南京下見杉板張りという洋風建築だが、屋根はしゃちほこが据えられた寄棟造り日本瓦葺き。内部壁の主な仕上げは、板張りと漆喰(しっくい)塗り。

 応接間入口上には、当時の名称であった武蔵絹織物同業組合の「武」の文字をデザインした模様が鏝絵(こてえ)で描かれている。鏝絵は、左官職人が使う道具の鏝を用いて、漆喰を浮き彫り風に描いた絵。当時の職人の高い技術力を伺い知る事が出来る。2階大広間の天井は、小幅折上天井で中央部にむくりが付いている。中央部の天井が一段高くなる構造で、さらに中心部を凸状に盛り上がらせた建築様式。部屋に奥行きと開放感を出す事が出来る。随所に趣向を凝らした和洋折衷様式の同棟は、大正時代の息吹が感じられる。

 (一社)県建築士事務所協会の県指定景観整備機構運営委員として調査担当を務める建築士の浅野正敏さん(同市柳町)らは、「飯能の観光拠点としても貴重な同棟を残すべき」という思いから、これまで同棟の屋根に登ったり詳しく調査、県や市に保全を訴えてきた。また、「飯能の文化遺産を活かす会」(小林和子代表=同市虎秀)は、定期的な「お掃除会」などを通して、地道な保存活動に取り組んできた。

 今回の登録は、こうした市民の長年の活動が実を結んだもの。

 有形文化財に登録されると、修理のための設計管理費の補助や減税の措置が受けられる。

 市では、20日に開かれた文化財保護審議委員会で、同棟を他の3建造物とともに、市指定文化財の新候補に追加していた。今後、同委員会で市指定文化財にふさわしいかどうか調査研究、審議、検討が進められる。指定文化財になれば、文化財保護法や文化財保護条例での保護対象の有形文化財として、いっそう同棟の維持・管理に弾みがつく。

 織協の大沢正夫理事長は、「ご先祖様から預かる形で維持・管理をしてきたが、登録されたことで文化的価値が証明されたようなもの。建物もだいぶ古くなったが、何とか維持していかなければならない」と、喜びとともに、維持・管理の難しさも口にする。

 また、浅野さんは、「今回の登録で、飯能が織物産業で栄えた歴史を同棟の保存活用で掘り起こし、市民に広く知ってもらい、飯能市の活性化につなげたい」と、同棟の活用についても触れた。

 しかし、同棟を所有管理する織協組合員は現在10人。一人は60歳代だが、残り9人は70歳以上。維持管理費は、駐車スペースや内部の賃貸料で賄っている状態で、「維持していきたい気持ちはあっても、地震など天変地異に向けた資金がプールできない」と、大沢理事長は、今後に不安を感じており、組合員で検討していきたい、と話している。