農のある暮らし「飯能住まい」推進 定住希望者が契約結ぶ

地域の中心、南高麗行政センター

 飯能市は、市外からの定住・移住促進策として「“農のある暮らし”『飯能住まい』制度」を、昨年度から南高麗地区を対象に推進しているが、このほど移住希望者と土地所有者の間で「土地売買に関する基本合意書」が結ばれ、先月の市議会定例会で大久保勝飯能市長が報告した。移住への動きが具体化したのは初。また、別の移住希望者は、子どもが小学校入学の年齢に達したため、売買契約の締結や家屋建築が待ちきれず、4月から同地域の賃貸住宅に転居、地域での暮らしをスタートさせながら、定住に向けた売買契約締結に向けて交渉を始めている。

 制度が発足してから約1年で、2家族8人の移住がほぼ決まり、同市では、今年度広報活動の強化などを行い、同制度の促進を計画している。

 南高麗をはじめ同市の山間5地区と呼ばれる森林の多い山間部は、平成17年からのおよそ10年間で、人口が約15~25%減少。山間地域の振興と、人口の維持が同市の大きな課題の一つになっている。

 一方で、同市は、西武線の池袋駅から特急で約40分という都心への通勤圏にありながら、飯能河原、天覧山、名栗湖など豊富な自然に恵まれた「森林文化都市」として知られる。

 この特性を活かし、農業が暮らしの身近にありながら、都心への通勤も十分可能なライフスタイルを提案することで、市外からの移住や定住を促進し、「消滅可能性都市」から、「発展都市」への一助とすることを目的としたのが、この制度。

 国の優良田園住宅建設促進法に基づき、市独自の基本方針を策定、昨年4月1日、南高麗地区の一部地域に施行した。

 市は、同地区が、開発が規制され農地が身近な調整区域でありながら、一部地域は公共施設などが整備され、幅員4メートル以上ある道路が近くに通り、水道管が敷設され、土砂崩れの恐れがないなど、快適に暮らせる環境も整っていることから、同制度施行の対象地域に選んだ。

 同地区は、飯能駅から車で5分から15分程度で、サクラ、ホタル、紅葉などの豊かな自然環境にも恵まれている。

 対象となる土地は約1・9ヘクタール、20家族くらいの移住を目指している。

 移住・定住希望者への具体的な支援策は、希望者には、ツアーなどを通じて現地を案内し、農のある暮らしのイメージを描いてもらう。また、地域住民との出会いの機会を作り、市内観光も企画している。希望者が、必要条件を満たした一戸建てを建設した場合、各種補助金を支給し支援する。

 住宅の基本要件は、敷地面積300平方メートル以上、一戸建ての木造を基本とし、建ぺい率30%以下、容積率50%以下などをクリアする必要がある。

 この制度が創設される前から、市には家を新築する際、西川材を使用し建築した場合の補助金(上限額50万円)などの既存の補助金制度があり、これらを組み合わせると最大185万円の補助金が支給された。今年度から新たに、「飯能住まい事業補助金」制度を新設。最大新たに100万円が支給され、合計285万円まで補助金として支援を受けることができる。

 移住・定住のライフスタイルは、農業体験型、家庭菜園型、農園利用型、農地利用型の4類型を想定。

 ライフスタイルに合わせて、都心に通勤しながら、農業が身近にある暮らしを選択できるほか、就農も可能。就農する場合、南高麗など山間5地区で新規営農をしやすくするため、市は500平方メートル以上なら農地を買えるように基準を引き下げている。

 制度を利用して移住した定住者、移住者に農業関係の講習会や作付け指導など、それぞれのニーズにあった支援も実施する。

 実際の土地探しや、売買に向けた土地所有者との交渉は、市と協定を締結した宅地建物取引業者を市が紹介する。

 事業が開始された当初は、同制度を紹介するホームページへのアクセス件数は、月300件程度だったが、複数の雑誌に紹介され、上越新幹線に中吊り広告を掲載するなど、積極的にPR活動を行った結果、10月ごろから、月2000件を超えるアクセス数に。

 これまで、市には約140件の問合せがあり、市職員が、移住希望者17人を現地案内している。また、先月には、日帰りの「飯能暮らし体験ツアー」が行われ16人が参加。ジャガイモの植え付けや餅つき体験、制度の趣旨説明、地ビールの試飲、様々な市民との交流会、ひな飾り展見学など、盛りだくさんの内容で、移住希望者を歓待した。

 その中から、県内在住の3人家族の希望者が、土地所有者と「土地売買に関する基本合意書」を結び、3月の定例市議会で市長が発表した。今後、売買される土地の広さや価格などを、当事者同士間で話し合っていく。

 この家族は、都心に通勤しながら、土地の一部で農業体験を楽しむ家庭菜園型の移住希望者という。

 さらに、県外からの移住希望者は、長男の小学校入学が4月に迫っていたため、売買契約締結を待たずに、地域の賃貸住宅に転居。同地区の環境が気に入り、市長に手紙を送り、現地訪問した際、地域の小学校の校長先生にも会う事が出来、移住への気持ちがより強くなったという。子ども3人の5人家族。

 市では、今年度もツアーを企画するなど、積極的にPR活動を行い、1家族でも多く移住実現に向け取り組んでいく。