「飯能産ワカサギ」誕生へ 入間漁協が画期的取り組み

ワカサギ産卵場付近を視察する県、漁協関係者

 入間漁協(古島照夫組合長)は、飯能市下名栗の名栗湖(有間ダム)で、この春にも埼玉県内で先駆けとなるワカサギの人工採卵・ふ化事業に乗り出す。

 同湖では今、ワカサギ釣りが最盛期を迎えているが、もともとは北海道などの業者から購入した卵を放流しているもの。

 事業は、卵購入先の不漁などによる卵入手が困難になる事態に備えようとするものだが、採卵、ふ化に成功すれば、県内初の快挙となる。

 将来的に〝飯能ブランド〟にもなり得る地元産ワカサギの誕生に向け、手間はかかるが関係者の意気込みは熱い。

 名栗湖でのワカサギ人工ふ化事業は、同湖で採捕した親魚のワカサギを産卵・受精させ、ふ化後、同湖に再び放流しようとする取り組み。埼玉県内での単位漁協による前例はない。

 22日、埼玉県農林総合研究センター水産研究所(加須市)の職員が名栗湖に訪れ、同湖でのワカサギの人工ふ化が可能かどうかを、入間漁協幹部と現地視察をしながら協議した。

 同漁協からは古島・平沼啓祐正副組合長、名栗湖のある地元名栗地区から滝田弁吉支部長らが出席し、ワカサギ親魚の採捕用の網を仕掛ける場所となる同湖の流入河川の有間川流れ込みなどを見て回った。

 県水産研究所は、平成19年から21年にかけ、名栗湖でワカサギ産卵場と産卵量についての調査を実施している。

 その結果、ワカサギは4月初旬から中旬にかけ、有間川が流れ込む付近で産卵していることが分かり、親魚500匹(約3グラム)を採捕し、500リットルの水槽に入れ、32万粒の卵を取った。

 こうした調査を基に名栗湖でのワカサギ親魚捕獲による採卵の取り組みについて、県水研が入間漁協に打診していた。

 同漁協のワカサギ卵仕入先は、網走の業者と長野県諏訪湖。が、網走は作業員が高齢化している上に、極寒の採卵作業となるために入手困難。さらに、諏訪湖については昨年、親魚の約8割が死滅するというトラブルも発生した。

 今後の卵入手に不安材料を抱える入間漁協と県水研の双方の思惑が合致、県内単位漁協としては初となるワカサギ卵の採卵、ふ化計画が実現した。

 親魚の捕獲は、名栗湖の流れ込みに仕掛けた「ふくろ網」で行う。産卵を控えたワカサギは遡上する習性があるため、これを利用して網に誘導する。

 網に侵入したワカサギを酸素供給が可能な容器に収容して上流の観光釣り場に輸送、事前に設置済みの採卵用水槽に投入。ワカサギの親魚はこの採卵用水槽の中で産卵、受精する仕組みだ。

 受精卵については水槽の底などに付着するため、水槽の水抜きをした後、シャワー状にした水流で卵をそぎ落とし、名栗湖の浮き桟橋に設置するふ化器に入れて、自然ふ化を待つ。計画では3月下旬にふくろ網を河川に設置し、4月から捕獲、採卵を行う段取りだ。

 埼玉県を代表するワカサギ釣り場として、釣り人たちの間で形容されるまでに認知度を高める名栗湖。

 人工ふ化が成功すれば、他からの購入に頼らず、ワカサギの自前生産が可能となり、釣り魚としての対象だけでなく、将来的に料理店への親魚の提供といった道も開ける。

 平沼副組合長(74)は「事業が本格化すれば、ワカサギ卵を他の漁協に回すこともできる。親魚を取ってふ化させることは難しいが、上手くいくと思う。チャレンジ精神でやりたい。名栗湖のワカサギは食べて美味しいと評判なので、将来的にはブランド化も可能と思う。地域活性化にも寄与できるのではないか」と期待をかける。

 入間漁協の名栗湖へのワカサギ放流数は、平成26年度2000万粒、同27年度3000万粒、同28年度1700万粒となり、今年度については2000万粒を予定している。