下水汚泥が肥料に変身 浄化センターの「脱水ケーキ」

脱水ケーキの乾燥具合を確認する浄化センターの委託業者(同センター西側のストック場)

 飯能市民が毎日の生活の中で排出する生活排水を、きれいな水に変え、成木川へ放流する施設「市浄化センター」(征矢町)。この施設の汚水処理過程で発生する「下水汚泥」が、農作物の肥料として効果が得られることは、根強いファンがいるものの、市民の間では意外と知られていない。

 水分を抜き、含水率80%ほどにした汚泥は「脱水ケーキ」と呼ばれ、肥料の三要素である窒素、リン酸、カリを含み、葉物野菜の生育に好適という。

 脱水ケーキは、浄化センター場内から搬出され、数十メートル西側に離れた乾燥場にストックされる。「黒色をした土」というのが、見た目の印象だが、ここで数日間、天日干しされ、水気が抜けたものから、市民に無償提供されていく。

 春先に軽トラックを横付けし、持ち帰る農家もいる。ちょっとした家庭菜園や花壇作りにも重宝される。加治地区在住のAさん(60代)もその一人。「家が近いので、散歩途中に袋に入れて持ち帰るんです」と話す。無料脱水ケーキは、知り合いの農家に教えてもらったという。

 成木川と入間川に挟まれた、かつての田園地帯約8万9000平方メートルで昭和55年から稼働する汚水処理施設の浄化センター。

 計画処理区域面積は市街地を中心に約2233ヘクタール、1日最大で3万5200立方メートルを処理することができる(市公共下水道事業基本計画)、県内でも有数の単独公共下水道だ。

 葉脈のように地中に張り巡らされた下水管で集水する生活排水の処理区域は、平成28年4月現在約1000ヘクタール、対象処理世帯は約2万2280世帯。市の下水道普及率は約67%と決して高くはないが、市民の生活利便向上にと、地道な管きょ整備が続けられている。

 浄化センターに流入してくる下水量は、平成27年度で1日当たり約2万3000立方メートル。この汚水は、ごみや砂を沈める「沈砂池」や、沈砂池で取れなかった汚れを落とす「最初沈殿池」、微生物の力で汚れを分解する「反応タンク」などの処理工程を経て、最終的に河川水に近い水質まで浄化、施設脇を流れる成木川へと放流される。

 下水の処理過程で沈殿、ろ過などによって除去される泥状の物質が汚泥で、浄化センターの場合、汚泥は河川放流前の工程分である「最終沈殿池」の底部に堆積する。この汚泥の複数ある活用方法の一つが、身近な農作物肥料への転換だ。

 汚泥を遠心分離機で含水率80%まで脱水し、残った固形の物質が脱水ケーキと呼ばれる。日量平均で約4トン発生する、この固定物質は産業廃棄物扱いのため、市は処分を外部に委託、肥料化以外にセメント化やガス発電化の助燃材などに市外施設で用立てられているという。

 平成12年、脱水ケーキは窒素、リン酸、カリなどを含有し、農作物の生育に適しているとして農林水産省に肥料登録された。

 処分に費用がかかる産業廃棄物を、肥料に転換しようとする発想のきっかけなどは不明だが、肥料化による農地還元は実を結び、下火になることもなく市民に今も供されている。

 参考までに、市民の利用が多いのは5月、10月、3月、4月の順。昨年度は約92トンが市内の農地などに還元され、さまざまな作物の生育を支えた。

 市浄化センターでは「スコップが備え付けてありますので、自由に運び出して下さい。農家の方だけでなく、市民農園や家庭菜園を愛好する市民の方々もどうぞ」と呼び掛けている。

 問い合わせは、飯能市浄化センター(972・4798)へ。