著書を手に笑顔を見せる市川さん

著書を手に笑顔を見せる市川さん

 飯能市に生まれ、県飯能土木事務所(現飯能県土整備事務所)を振り出しに、36年間にわたり秩父土木、有間ダム建設事務所など県西北部の土木部出先機関で用地交渉などの最前線に立った市川正三さん(75)の著書「苦情は役人の良薬です」が、さきたま出版会から発行された。

 過去に文化新聞紙上に連載し、理不尽なクレームや頭を悩ませる案件に真摯に向き合ったユーモラスな体験談18集を1冊にまとめた。

 在職中の大半を用地交渉と苦情処理に明け暮れたという市川さん。現場職員の参考になればと自身の体験を綴るようになり、定年退職を迎えた60歳の時に「用地現場で30年」(文化新聞社印刷)を発行。用地現場に携わる職員から「用地交渉のバイブル」との称賛を受けた。

 その後、平成15年から17年にわたり、今度は苦情処理に携わった体験をテーマに、文化新聞紙上に「苦情は役人の良薬です」と題して連載。今回、10年の時を経て、その中から選りすぐった18編を自筆のイラストを交えて1冊に。

 「土下座」「失言」「中州のテント」「暴行騒ぎ」「知事の苦情」「詫びに行った現場代人」「役立たず」「青大将」「遅刻の朝」「筋違いの苦情」など、いずれも市川さんが遭遇した苦情処理のエピソード。

 「道路があっても良いことは何も無いから、どこか遠くへ持ってってちょうだい。邪魔だから」「道路が無ければ皆さんの生活は成り立ちません!もっとも重要な生活基盤設備なんです」(「暴行騒ぎ」より)。

 「ここは危ないので、テントを張るのは止めてください」「ここがいいから、ここにいるんだ!てめえに何の関係あるんだ!」(「中州のテント」より)。

 怒り狂うクレーマーに真っ正直に向き合う姿にクスリ、ヒヤリとする場面も。文末には「工事にハプニングはつきもの」「苦情には正面から取り組むことが良い結果につながる」「相手の立場に立ってものを考えることも大切。しかし、毅然たる態度を取り続けることは、もっと重要」など体験から得た教訓を記した。

 本紙連載当時には、クレームに悩む公務員から「問題から逃げずに、前向きに取り組んだら解決の糸口が見つかった」との声や、「友人知人からは“公務員が一番楽していると思ったらそうでもねえなあ”とか“公務員も結構大変なんだなあ”との感想が寄せられた」という。

 市川さんは「私の公務員生活の大半は用地交渉と苦情処理だった。連載当時、公務員が公務そのものについて著したものは珍しいとの反響を頂いた。苦情は誰にでも起こり得ること。真摯に話を聞き、正面から取り組むことで解決の糸口が見つかり、教訓を得ることができる。お読み頂いた方に前向きになってもらえたら嬉しい」と話している。

 新書判174ページ。税別800円。