自然本来のタネを守る 飯能市小瀬戸の野口さん

固定種の販売に力を入れている野口さん

 「子孫ができない野菜ばかり食べていたら、たぶん人類滅亡」と危機感を語るのは、飯能市小瀬戸で種苗研究所を営む野口勲さん(72)。

 普段食べている野菜等のタネには、その土地々々の土、水、気温などの風土に適応してきた自然本来の「固定種」と、大量生産・流通・消費に向くように、人工的な交雑で作られ、形、色、味などの規格を均一にしたF1と呼ばれるタネがある。

 普段、一般的に食べられている野菜のほとんどが、このF1から生産された野菜。野口さんは、固定種のタネの保全に取り組み、共鳴してくれた農家にネット通販している。

 野口種苗研究所は、野口さんの祖父・門次郎さんが昭和4年、飯能町久下に野口種苗園を創業したのが前身。平成20年ごろ、同市仲町の銀座商店街から同市小瀬戸に店を移した。

 F1は、優れた資質を持つ固定種同士を掛け合わせた。F1から生産した野菜等は、どこでも同じ規格・価格で大量に作れるため、今、世界中で栽培されている野菜や果物は、ほとんどがF1のタネから。

 しかし、F1は一代限り。そこから新たにタネを取ることができないため、大量にF1のタネを生産しているアメリカなどから輸入している。

 日本では、F1が席巻し、固定種からタネを取る農家は、ほとんどなくなってしまった。

 野口さんは、「生物には本来多様性があり、同じ親から生まれても、身長、体重、生育スピードが違うのが当たり前。大量流通には向かないが、個体ごとに個性があるので、病害虫や台風などで全滅するようなことは少ないし、固定種がなくなり多様性が失われれば、F1を作ることもできなくなる」と危惧する。

 「まず第一に固定種の野菜の方がうまい。健康にも良いと思う。子孫が作れない野菜は、生命ではなく、かわいそうな食材に過ぎない。そればかり食べている人間は、滅亡するのではないか」という。

 また、20年に一度の割合で、F1を生産するアメリカ農家が使用する養蜂ミツバチが、大量死する蜂郡崩壊症候群が起きているが、これは、F1と何等かの関係があると考えている、と持論を披瀝した。

 平成13年ごろから、固定種のインターネット通販を始めたところ、大きな反響を呼び、全国から講演依頼が殺到。一時は、講演だけで年50~60回。メディアにも多数取り上げられ本も出版している。

 しかし、講演で興味を持った参加者から、うちでも固定種を生産しているという話を度々聞くが、実際に畑などを視察すると、環境が整っていないことが多い、という。

 野口さんから、固定種のタネを買っている農家は、1~2万軒あるが、そのタネを採取して育てている農家は100~200軒。野口さんが、固定種のタネを定期的に買っている農家は、埼玉県内の3軒を含めて全国に5、6軒程度。

 「人間でいえば、男性が原因の不妊症に当たるおしべしかない個体を見つけて育て、それに受粉させるのだが、そんな植物ばかり食べていいのか」と、野口さんは不安を口にしている。