「天上の虹」里中さんが講演 渡来人の里フォーラム

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 「古代歴史ロマンで地域づくり~渡来から未来へ」と題し、第13回「渡来人の里フォーラム」がひだかアリーナで開催され、持統天皇の生涯を描いた「天上の虹」など歴史上の人物を題材にした作品で知られる漫画家の里中満智子さんを講師に招き、講演やトークセッションが行われた。

 高麗郡建郡1300年記念事業の一環として、日高市、高麗郡建郡1300年記念事業日高市実行委員会、高麗1300、高麗浪漫学会が主催。会場には約800人が訪れ、講演を通じて高麗郡建郡当時の歴史を学び、未来へのより良い地域づくりへ関心を高めた。

 フォーラムは2部構成で行われ、第1部では高麗浪漫学会の高橋一夫会長が「高麗王若光の生きた時代を想像する」と題して解説した後、里中さんが「古代女性天皇と渡来人」と題して講演、その後、女子栄養大学実践運動方法学研究室による「高麗の舞」が披露された。

 第2部では「古代歴史ロマンで地域づくりとは」をテーマに、高麗神社の高麗文康宮司がコーディネーターを務め、里中さん、高橋会長、谷ケ﨑照雄市長、高麗1300の大野松茂理事長によるトークセッションが行われた。

 里中さんが飛鳥時代の持統天皇を主人公に描いた作品「天上の虹」は、32年をかけ昨年3月に全23巻が完結。物語は高麗郡の初代郡司を務めた高麗王若光(こまのこきしじゃっこう)が生きた時代と重なり、里中さんは高麗郡建郡当時の時代背景を紐解きながら、他者を受け入れ平和的に地域づくりを進めた当時の人々の姿に思いを馳せた。

 「持統天皇の少し前の時代、日本は百済再興のために大軍で唐・新羅連合軍に挑み壊滅し、存続をかけ急ピッチで国づくりを進めた。その中で必要とされたのが渡来人の技術と力、知識。国難を逃れてきた多くの渡来人とともに国づくりに邁進し、持統天皇の代になってようやく独立国家としての基盤が築かれた」。

 「この後、国内では反乱が起きるが、そうした中、朝廷は高句麗や新羅から来た人たちに建郡を認めた。他国の人がまとまってコミュニティをつくり、それを郡として認め、住むことを許可して応援するということは大変な決断だったと思う。中央政府は渡来人に運命共同体として頑張っていこうという信頼の証を見せたのだと思う」。

 里中さんは建郡を進めた当時の人々の姿に「平和的に穏やかに建郡が行われたことに感動せずにはいられない。受け入れる側も来た人も、互いに努力し分かり合おうという気持ちがないと、このような形にはならない。中でも高麗郡は実に歴史がはっきりしている。ここには象徴的に高麗神社があり、“心の芯”としてあり続けたということは非常に大きい」と述べた。

 さらに、古代から学び未来の地域づくりへつなげていくため、「他者を受け入れる、あるいは他者の輪の中に入る時、何が必要か。それはお互いに興味と好奇心を抱き、“へぇ、そうなんだ”と思うこと。こんな考え方はなじめない、近づきたくない、というのではお互いに恐怖心と疑いが生まれる。日本人は、同化する、なじむ、認め合うことで、表面上大きな争いはなくやってきたということに改めて学んで、誇りにすべきだと思う。そして、ここ高麗はそういう土地だった、受け入れた土地でもあり、来た人が頑張って開いた土地でもある。これが今後の国際社会においてもずっと通用する人間としての基本のあり方だと思う」と締め括った。

 高麗宮司がコーディネーターを務めたトークセッションでは、高橋会長が「小さなことがつながって、やがて大きな歴史につながる。高麗郡を掘り下げてゆくと新しい視点が生まれる」。

 また、大野理事長は「里中さんのお話の中で、高麗郡建郡時の元正天皇(持統天皇の孫)が、日高市と同じ読み方の“氷高皇女(ひだかのひめみこ)”と呼ばれていた偶然に感激した」。

 谷ケ﨑市長は「自分のふるさとの歴史を語れる子を育てたい。1300年記念事業の取り組みそのものが、東アジアや世界へ向けての平和のメッセージです」などと述べ、満席の会場からは拍手が沸き起こった。